平成28年度事業計画
当財団は昭和25年の設立以来、衛生管理者の養成をはじめとして、企業健診、成人病健診等を実施し、労働者の健康確保を通じて事業場における生産性向上に寄与してきた。
近年、急速な産業の高度情報先端技術化の進展とともに典型的職業病は減少を続け、現在では統計の対象となる4日以上休業を要する職業病の大半を腰痛が占め、じん肺症がそれに続いている。同時に、各種の社会経済的な要因が相対的に重要になり、うつ病や自殺が大きな問題になっており、平成27年12月から労働者のストレスチェックが法制化された。ただし、この新しい健診はこれまでと違い、産業医に実施責任が課せられており、産業医の責任はこれまでになく大きくなった。このような新しい流れでは、典型的職業病対策とは異なり、従来型の個別予防策を樹立するのは非能率で、総合的戦略的アプローチがますます重要になってきている。
日本の全労働者数の25%が10人未満の規模に、又60%強が50人未満規模で働いている。このような現状に加え、産業の情報化、サービス化のさらなる進展により、企業規模の縮小、事業場の分散化はさらに進むものと予想される。また、年金支給開始年齢の引き上げと、それに伴い導入されつつある定年後再雇用制度により、非正規労働者数が急増している。その結果、雇用形態は多様化し、短時間勤務、派遣労働、在宅勤務等様々な形が混在するようになっており、現行法制度である場を単位とした産業医による事業場内部からのサービス提供方式だけでは、サービスの質をこれ以上向上させることは難しい。
こうしたニーズの変化に対する最近の動きとして、各地で産業医として独立開業する傾向が注目される。独立産業医の顧客は中小の事業場が中心であり、今後はこれら独立産業医の育成が一つの方向として注目されるところである。
産業医の育成に関しては、平成4年度から始まった日本産業衛生学会の専門医制度の発展に期待するところが大である。専門職の専門性確立には、科学としての産業医学の発展と、実践家としての活動原理、活動倫理の両面の確立が必要である。前者は、健康学と労働を正視した新しい体系の確立が待たれており、後者はマネジメントシステムの普及に待つところが大きい。
現在最も必要なのはこのような教育・訓練を担当する機関の整備であり、特に別の定職についたままで受講できる遠隔教育コースの整備や、短期間のスクーリングのための施設、さらには本格的な卒後教育機関として産業保健専攻の大学院修士課程の設置などが緊急の課題となっている。これら生涯教育の対象職種としては、少なくとも医師、看護職、ハイジニスト、人間工学専門家、心理専門家等が含まれなければならない。
当財団では、以上のような問題認識に立ち、平成28年度には以下に掲げる事業を計画する。
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